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福岡家庭裁判所飯塚支部 昭和51年(少)82号 決定 1976年4月06日

少年 S・J(昭三一・一・一〇生)

主文

本件申請を棄却する。

理由

(本件申請の要旨)

少年は、知能が準普通域の下限近くと劣り、ものごとを知的に取り扱おうとする構えが身についておらず、考えは軽薄、粗雑、安易で深みが全くなく、昭和五一年二月一八日の本件申請時までに四回の規律違反行為をなしている。少年の実父は胆のう炎で通院治療中で生活保護を受け、実母は家出して事実上離婚の状態にあり、帰住先としては前の就職先○○組のみが考えられる(○○組は少年の就職は可と言つている)。少年は本件申請時一級下の処遇段階にあり、一級上の全課程が終了するのは六月上旬の見込であるが、以上の点からすると、少年を三月二七日の収容期間満了により退院させるのは時期尚早である。よつて三か月間の収容継続を申請する。

(本件申請に至る経緯)

少年は、昭和五〇年三月二八日、当裁判所において窃盗、強盗、恐喝非行により特別少年院送致となつて大分少年院に入院し、同年一二月二四日少年院法一一条一項但書による収容継続決定があり、昭和五一年三月二七日その収容期間が満了するものであるが、大分少年院長より同年二月一八日付で本件収容継続申請がなされた。

(当裁判所の判断)

一  少年は、入院後、間のない昭和五〇年五月一五日自傷行為により謹慎七日間、減点三〇点の処分を受け、同年一一月から昭和五一年二月までの間四回にわたり不正品所持等により謹慎五日間の処分を三回、院長訓戒の処分を一回(いずれも減点されている)受けたほか小反則もいくつかあり、実習面でもムラがあり、真剣さの不足を窺わせる場面もあつて、成績は必ずしも良好ではなく、昭和五一年二月二六日一級上に進級したが、一級上の処遇は収容期間満了後も引き続いて行えば同年五月二〇日ころに一応終了するようである。しかし少年は二月以降、落ちついてきており、紀律違反はない。

二  少年は、本件申請の指摘するとおり、知能が劣り、ものごとを知的に受けとめる姿勢が身についておらず、性格的には深刻さがなく、上つ調子、気儘、軽薄で即行的、軽はずみな行動に走り易い。前記紀律違反行為は少年の性格、行動傾向の徴憑ということができる。そして少年に対する矯正教育を続ける必要性も一応首肯し得るところである。

三  しかし、前記の自傷行為は他の院生が割れた碁石で怪我をしたので碁石で本当に受傷するか試してみたというもの、毛抜き所持は他の院生から竹製毛抜きを貰い受け所持していたが、捨てるつもりでいたのに置き忘れていたというもの、額の毛抜きはロッカーの帽子かけが取り外しができたので毛抜きとして使用したというもの、マッチ軸の所持は同室だつた他の院生が置き忘れていたマッチ軸を便所の棚の上に放置していたもので、いずれも軽はずみな行動と認められるけれども、それ程悪質ともいい難く、むしろ比較的軽微とも思われる。石鹸窃取行為は他の院生と共に教官用便所に行つた際、香りがいいので持ち帰つたもので軽卒のそしりは免れないが、悪意は見受けられない。

少年の数回の紀律違反はその性格、行動傾向に根ざすものであるが、少年の知能が低いこと、幼時から劣悪な生活環境に育つたことからすれば、その性格、行動傾向の矯正は一朝一夕にはなし難いのであつて、むしろ社会復帰させ、しつかりした環境で少年を育成すれば少年院で矯正教育を続けるのと同等あるいはそれ以上の矯正効果をあげ得るものと思われる。

四  少年の実父は自分が食べていくだけで精いつぱいで少年を引取る余力も意思もなく、実母は実父と事実上の離婚状態であるが、さいわい、少年が以前に働いていた堺市の株式会社○○組の上司、○谷○司氏(常務取締役)において、少年の引取りに熱意を示し、少年を○○組で働かせ、十分に指導監督していくことを誓つている(○谷氏は審判に出席するため堺市から大分少年院まで出向いてきた)。○岡組は○○電工の下請の送電線工事をしており、堅実な企業であつて就労員は三〇名位で全国各地に分散、工事をしているが、堺市には社員寮もあり、そこでは○谷氏の目も届くし、工事現場に出ても班長に少年の指導を委ねることが可能である。少年は以前○岡組ではまじめに働き、同僚とも協調しており、○谷氏を親代りであるように感じて親愛の情を抱いており、このたびの同人の態度に感謝し、一日も早く、○岡組に戻つて期待にこたえるよう努力し、更生していく決意をしているので、○岡組は少年にとつて好ましい帰住先であるというべきである。

五  以上のとおり、少年の前記性格、行動傾向を短期間で矯正することは難しいこと、紀律違反の程度、少年と○岡組、○谷氏との人間関係、少年の更生への意欲等からすれば、少年を社会に復帰させ、○谷氏の指導監督の下で○岡組で働くことより社会訓練をさせ、少年の努力に期待して更生の道を歩ませることが相当であると思料する。

六  よつて少年につき収容を継続する必要はないものと認め、本件申請を棄却することとし主文のとおり決定する。

(裁判官 大串修)

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